2016/12/25

2016年VOCALOID10選

今年もやってきましたボカロ10選の季節。
選考基準は「印象に残った曲、私自身が好きな曲」。 選考対象は今年公開されたVOCALOID、UTAU、CeVIO歌唱楽曲。
上半期10選の入落選は考慮せず、今(2016年末)の私が選んだ今年の2016年ボカロ10選という体でいきます。
では早速、公開日時順にご紹介。

1. Orangestar / "Alice in 冷凍庫" (2/17)



上半期5選から続投。今年1番の「神が見える」曲。
ハーモニーは薄く、打ち込み感の強いサウンドは必ずしもリッチでない。
しかし、だからこそ、本作はその真価をまざまざと見せ付けてくるのだ。
過剰な伴奏に邪魔されない広々と空いた空間で歌うIAは、時にさえずる小鳥のように、時に大空を舞う白鳥のように、自由自在で伸びやかな表現を聴かせてくれる。
たとえVOCALOIDより情報量に優る人間であってもこれほど自由に歌うことはきっと容易ではない。歌を自分のものにし、歌そのもので聴き手を魅了する本作のIAは、もはや言葉を失うほどの神々しさである。


2. くらげP / "チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!"(2/22)



これも上半期5選から続投。「ボカロって楽しい!」と、数年ぶりに私に思わせてくれた曲。
高速シャッフルビートに刺激的なサウンド、そして何より間奏のコール&レスポンスが最高に楽しい。誘われるままに「さー、さー、密告だ!」「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」と繰り返せば、熱狂の波に心が踊る。
鮮やかな紫背景にアンチック体で綴られる歌詞の視覚的なインパクトも充分(そして何よりゆかりがかわいいんだ)。
これはいつかボカクラで浴びてみたいなあ。絶対楽しいと思うのよね!


3. FALL / "ワンデイ イン ザ レイン" (4/23)



今年のUTAU枠その1。そして今年最もお気に入りだったR&B。
R&Bらしいウェットなサウンドはしとしと降る雨をぼうっとながめているよう。繰り返される「あめふりしとしと」のフレーズも印象的。
とかく、聴けば聴くほど曲の世界観に引き込まれる。シンコペートしたビートに身を預けていつまでも揺れていたくなるような、極上の心地よさが本作最大の魅力だ。
ボーカルは雨歌エルと雪歌ユフ。この文章を書き始めるまですっかり失念していたのだが、エルは昨年の「永遠なんて知らないよ」に続いて2年連続の選出になった。お見事。


4. みきとP / "39みゅーじっく!" (6/29)



「マジカルミライ2016」のテーマソング。ボカロシーンが空前の大好況に沸いたこの1年を象徴するような、景気の良いEDM。
本作の魅せどころは曲、詞、そして映像と、さながら三所攻めの形である。
まず曲については、とにかくベースがめちゃくちゃカッコいい。唸るような弦の鳴りと跳ね回るビートを聴けば、無意識に身体が動いてしまう。
詞も興味深い。今や世界を股にかけるスターとなったHatsune Mikuが、「NIPPONの魂」、「日は出づるぞ」と非常に日本を意識した歌を歌うということ。これは彼女なりの故郷に対するサービスなのではないかと思われてならない。
そして映像。前記マジカルミライの時のライブ映像がYouTubeで公開されていたのだが、冒頭のキメと言いランニングマンのキレと言い、超カッコいい。ああ、マジカルミライ行っておけばよかったなあ……。


5. ナブナ / "ラプンツェル" (7/6)



当代屈指の人気P、ナブナさんの名曲。
今年のナブナさんと言うとぼからんに毎週4曲も5曲も載せてたりしていたのが印象的なのだが、まあそれはそれとして、今年の新作では本作が圧巻の出来だった。
本作の1番の魅力は、何と言っても途切れぬ緊張感だろう。細糸をピンと張りつめたような糸のような歌い出し。しかもサビで解放するのかと思いきや、そこで更に絞り上げる意外な展開。
温かで柔らかな音色に包まれながら、リラックスどころか呼吸さえ苦しくなるほどの緊張を味わわされるギャップは、正しく今年屈指の名曲と確信している。


6. ナユタン星人 / "飛行少女" (7/13)



誰もが認める2016年の顔、ナユタン星人さんのロック曲。
驚け、上半期5選選出曲のエイリアンエイリアンを外して本作を10選に入れたぞw というか、むしろ選んだ私自身もびっくりだったり。
エイリアンエイリアンは確かに名曲だ。うん、疑うべくもない。じゃあなんでこちらを10選に選んだのかというと、「ナユタン星人さんが聴きたい」と思った時に最初に選んでたのが高確率で本作だったからなんだよね。
決め手はやっぱり、速めのBPMから来るノリの良さと、下から迫り上がってくるようなサビメロ。相撲で喩えると下から下から突っ張られて5小節目の「Wow! Woh!」で完全に仰け反らされる感じなの。
ついでにギターも2小節単位で上昇形のパターンを弾いていて、サビ全体が迫り上がる形になっているし。
それから不協和で解決感の薄い音を多用しているのも好き。その場で止まらずにどんどん前へ進んで行く感覚になるよね。
あれこれ語っちゃったけど、 ナユタン星人さんらしさたっぷりの傑作なので、チェックしてない人はぜひ。


7. narry / "tanzanite" (7/23)



narryさん渾身のピアノバラード。
narryさんはこれまでポストロックサウンドでバラードを作ってこられていた方で、他の方で喩えるとkeenoさんを少しキラキラにしたような作風の方だったのね。
それが本作では趣向を変えて、ピアノ1台だけという腹の据わった編成のバラードで勝負してきた。しかもこれが超本気の名曲で、歌もオケも鬼気迫る説得力ときた。
これまでのnarryさんを知っていたからこそひときわ度肝を抜かれたんだよね。今までとは全然違う震え上がるような迫力が、もう耳に焼き付いて離れなくなった。
narryさんを知っている人も知らない人も、ぜひ1度は聴いてみてほしい名曲。


8. くらげP / "キライ・キライ・ジガヒダイ!" (7/25)



くらげPから2作目の選出、そして2016年の私的最高金賞作品。
最大の「好き」を捧げたい。本当に心の底の底まで全部掻っさらわれた。 9年間ボカロを聴いてきた中でもこれほど心奪われた曲は数えるほどしかない。詞、曲、歌、そして動画、どこを取っても非の打ち所がないくらいに好き。
その中でも特に詞は衝撃的だった。愛に飢え渇いて自我ばかり肥らせた怪獣の顛末はまるで自分のことを歌われているかのようで、非常に強く共感させられた。「あいされたい」、「ほめられたい」、そして「ゆるされたい」……本当にその通りなんだよねえ……。
また音の面でも魅力充分で、ギラギラしたバンドサウンドにソリッドなウナの歌声が映えること映えること。ウナはソリッドで主張の強い歌声である上に情報量も多いので、今のボカロでは頭一つ抜けていると言っていいレベルだよね。
正直、好きすぎてうまく文章にできないのだけれど、それでも冒頭書いたとおり、本作こそが今年の私的最高金賞作品なのだわ。


9. ポリスピカデリー / "Sugar Guitar" (8/23)



今年のUTAU枠その2。今年のUTAUシーンを牽引したポリスピカデリーさんの、レンリ曲3作目。
ポリスピカデリーさんと言えば「神調教の人」というイメージが強いけれど、それは本質ではない。調教が凄いのはこの方の作品なら「当たり前」であって、その上でこれほど完成度の高い曲を作り上げてしまうところがポリスピカデリーさんの神髄なのだ。
「曖昧さ回避」も「Cynic」も確かに凄かった。しかしあの2曲にはまだどこか調教の良さを過度に主張するような一種の嫌らしさがあったように思う。
しかしその点本作は違う。「Sugar Guitar」という曲そのものが猛烈に魅力的なのであって、調教の良さはそれを妨げない要素でしかない。
明るさの中にどこか切なさを感じるメロディ、2番Aメロの意表を突く南国風アレンジ、外国語のような独特の歌詞の載せ方等々、個性的で完成度の高いポリスピカデリーさんらしさ満点の作品なのだ。


10. はるまきごはん / "フォトンブルー" (10/22)



幻想的で感傷的で心揺り動かされるような、はるまきごはんさんのロック曲。
この曲の魅力は何と言っても歌声の質感だ。 聴き様によって泣き声のようにも聴こえるミクの歌声はまるで硬質で透明な硝子のよう。
この歌声でキザなほどに感傷的な詞を歌われると、思わず心を直接掴まれてがんがん揺り動かされるような感覚に陥ってしまう。
また、バックも含めたサウンド全体から放たれる非常に感傷的な響きは、もう絶品である。
特に、無音の1拍を挟んでから絶叫するように歌い始めるラストサビなど、あまりの美しさで思わずため息が出てしまう。
幻想的で感傷的で心揺り動かされるようなロック。そんなキーワードに惹かれる人にはぜひ本作を聴いておいてほしい。


以下あとがき。

2016年12月25日時点での再生数平均値502943、中央値が319001。最大値はチュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!の2144900、最小値はワンデイ イン ザ レインの8358。
昨年と比較すると、どの値も数~十数倍増加している。
おいおいメジャー志向にもほどがあるよ、私。シーン全体の伸びが良くなってるのもあるかもだけど、それにしてもねえ……。
まあ最近の私はわりとメジャー志向を意識しているところもあるので、それが数字に現れたってことですかね。来年はどうなることやら。

でもって軽く今年の総括。

2016年いいかげんにしろ。
何度そう言ったかわからない。2016年はボカロシーンにとって最高にエネルギッシュでエキサイティングな1年だった。
ゴーストルールのぼからん史上初4連覇から始まり、四天王の台頭、罪の名前ショック、Fukaseやウナ、レンリの活躍、年末の注目作ラッシュ等々、ボカロシーン始まって以来これほど盛り上がった年があっただろうかと考えてしまうほどの凄まじさ。
「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」のくだりでも書いたけど、私自身 「そういえばボカロってこんなに楽しかったんだ!」と思うくらい楽しくて、詳細に語り始めたらとてもあとがきの分量でなくなってしまいそうだから書かないけどね。

曲チェックの方法は相変わらず、ぼかうたらん+みてれぅちゃんねるでの新曲チェックをベースにしてきた。それからTwitterでホットな新曲を拾ってみたり、おすすめされたのを聴いてみたり。この辺も例年通りだね。
ただ今年の11月からボカロ系クラブイベントに行くようになって、今までとは全然違うシーン、全然違う人達と触れ合うようになったので、これは今後影響するかもしれない。
話は逸れるけど、ボカクラの話はいずれ別の機会にちゃんと語っておきたい。2016年末現在めっちゃくちゃ楽しくて、来年も通う気マンマンなのよね。またいずれ機会があればこの話も。

閑話休題。
何度も繰り返すけど、2016年はボカロシーンにとって、そしてボカロファンたる私にとって特別な1年になった。
この勢いが今後も続いてくれることを、いやこれまで以上の勢いでシーンが発展してくれることを切に願う。

さあ、来年はどんな「2016年」がやってくるのかな、今から楽しみだ!

2016/06/19

2016年上半期VOCALOID5選

今年のボカロが楽しすぎるので、思わず上半期10選を……と思ったんだけど、そんなに曲数聴いてないから5選で。
いつものことながら、「私自身が好きな曲、印象に残った曲」という基準で選んでるので、あしからず。
では早速、公開日時順にご紹介。

1. きくお/"のぼれ!すすめ!高い塔"(1/22)



年初から大ヒット作の続いた今年の、最初のマイヒットがこれ。いわゆる「指揮を振りたくなる曲」枠。
きくおさんってクラシックの素養のある方なんだろうなー、展開のダイナミクスと楽器の使い方が抜群に上手い。
歌詞も結構好き。どこかで聞いたことのあるような、ちょっぴりコワいループのお話。


2. Orangestar/"Alice in 冷凍庫"(2/17)



歌の中の歌。今年の曲で一番「歌」というものを意識させられた曲。
本作はとにかくオケが薄味で、最小限のビートとハーモニーしか用意されていない。
オケだけではあまりに無味乾燥であり、ゆえにごまかしの効かない「歌そのものを聴かせる曲」に仕上がっている。
そんな曲を歌っているのが、歌を数千年間独占し続けてきた人間ではなく、合成音声のシンガーなのだ。これがセンセーショナルでないわけがない。
「歌ってみろ」とIAが言っている。これはIAから人類への挑戦状なのだ――。
そう思うと、このシンプルな歌に底なしのオーラを感じてしまう。


3. くらげP/"チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!"(2/22)



皆さんご存じ、今年上半期の私的最高金賞作品。
この作品は、何年ぶりだか思い出せないほど久しぶりに、「楽しい!」って思わせられた動画なのだわ。
音楽面、デザイン面、イラスト面といずれも鮮やかなコントラストで、よく出来てるなあと感心する。
しかしなんと言っても、この作品で最高なのは「ご唱和」なんだよね。
参加してなんぼのエンターテイメント動画、一緒にコメントをする楽しさこそ本作の神髄と言っても過言ではない。
とにかく動画を開いてコメの準備をしてみよう。さー、さー、密告だ!


4. 碧華/"そばかす"(3/30)



最近の私の10選では欠かせない存在となった、UTAU枠。
全くもって、今のUTAUの性能は目をみはるものがある。息を呑むような生々しさという点では、もはやどんなVOCALOIDも全く太刀打ちできないだろう。
今年は「Cynic」のヒットもあったので、普段UTAUを聴かない人にもそれが知れ渡ったはず(レンリだけがずば抜けてると思ったら大間違いだよ)。
本作もそういうUTAU神調教作品の一つで、もう笑っちゃうほどの情報量。
その上で「ほらほら、すごいでしょ? ね? ね?」みたいなわざとらしさがなくて、のびのび歌ってる感じがとても素敵。
数あるUTAU神調教作品の中でこれを選出した最大の理由が、この自然体な歌唱なのだわ。


5. ナユタン星人/"エイリアンエイリアン"(4/5)



ヒットソング枠。
まあ、他の選曲もわりとヒットソングばかりだけど、本作は投稿予告から知ってて、かつ期待以上だったからということで。
ナユタン星人さんって世間の評判ほど好きではなかったのだけれど、本作には惚れたねえ。
キャッチーで雑味がなくて、今までのナユタンさんとは一線を画す出来。デザインの良さもさすが。


以下あとがき。

いやあ、笑っちゃうくらいメジャー作品ばかりになった。
実はノミネート段階では埋もれ気味の傑作もそこそこあったんだけど、絞った時にみんな落としてしまった。
メジャーだからって理由で選んだわけじゃないけど、今年はメインストリームがめちゃくちゃ面白いので、結果的に印象に残りやすかったのでしょう。
しかし、上半期5選やった場合って、年末の10選はどういうルールにすればいいのかね。悩みそう……。

2016/01/11

2015年VOCALOID10選

既に年も開けたけれど、どうせ私自身が後々読み返すことになるので、きちんとまとめておく。
今年も私自身が好きな曲、印象に残った曲をチョイスした。
以下、公開日時順に紹介する。

1
regulus / "Schwarzer Regen"
1/5



DubSteloidタグが付いてるから、ジャンルはたぶんダブステップ。

今年上半期で最もよく聴いたボカロ曲は、恐らくこれだと思う。昨年まで知らなかったPなので、なおのこと印象強かった。

2012年の10選で、この曲と同じダブステップの曲「てんしょう しょうてんしょう」を選んだ時も、同じようなことを書いたんだけど、この曲も緩急の変化が超気持ちいい。
Bメロの低めの音域から一気に跳ね上がるサビの入り。サビ前半でのひずみエネルギーが後半でそのまま運動エネルギーへと変わる、弾性体のような音楽。

サウンドはダンスミュージックらしく結構音圧があるんだけど、必要十分な音しか鳴ってないから上品に聞こえる。完成度抜群というか、プロ顔負けって感じね。


2
lumo / "パーティクルパーティ"
1/21



ジャンルわからんな……KARENTの紹介ではテクノポップって書いてあった。
lumoさんというと2012年の「ネコンダクター」が印象的で、10選候補にも挙げてた記憶がある。当時は枠の関係で結局選べなかったんだけど、今年は文句なしの選出。

一番の魅力は、何といってもサビの「Party Time! Dancing Night!」でしょう。これが中毒性抜群で、気が付いたら口ずさんでたことが何度もあった。
チップチューン風味で複雑なリズムを多用する作風は、さすがのlumoさんサウンド。この雰囲気は聴いただけですぐlumoさんってわかる独特のものよね。


3
40㍍P / "Snow Fairy Story"
1/31





40さんらしいド直球のポップ。
メジャー曲推しの人からもマイナー曲推しの人からも、「えっ、その曲選ぶの?」って言われそう。その上1月だけで3曲目。いいじゃん、どう選ぼうと私の勝手でしょう?

40さんはここ数年なかなかぴんと来ないことが多かったんだけれど、この曲は第一印象からすこぶる良かった。嫌味でなく、ダサくもなく、絶妙なところに落としてきたと思う。

サウンドも構成も、すごくスタンダード。いつもの40さんって感じ。ただ、その「いつもの40さん」の領域内に、私の琴線に触れるかどうかのより狭い領域があるらしく、この曲はそこをぴたりと撃ち抜いてきたのよね。
特に一つ魅力を挙げるなら、サビ3小節目のコードが素敵だわ。


4
和泉蛍 / "永遠なんて知らないよ"
2/28



ポップなロック? ロックなポップ?

滑舌はいまいちだし、サウンドも曇り気味で、決して完成度の高い曲じゃないんだけど、それを覆すほどのメロディが最大の魅力。ちょっとハーモニーが強引な分、それをねじ伏せていくメロディの力強さに耳を奪われる。
こういう手作り感の残る曲はボカロならではだよねえ……と言いたいところなんだけど、この曲UTAUなのよね。ちょっと前までボカロの魅力だと思っていた要素が、UTAUに移った気がする2015年。

それはともかく、和泉蛍さんは今年屈指のマイヒットで、この曲の他にも「吸血っく†ヴぁんぱいあ!」とか「キョンシー㊥ぱんでみっく!」とか、かなり期待して聴いてたPだったり。ぼかうたらん同時ランクインなんかもされてたし、来年はますます活躍していただきたいわ。


5
DATEKEN / "東京ルミネッセンス"
4/12



ブギウギ。ジャンル名だけでインパクトあるなあ。
なんかDATEKENさんは毎年選出してる気が……と思ったけど、実は2010年の「時の侭に」以来だった。意外!

ブギウギってジャンルが流行ってたのは、1950年代らしい。この曲も、この10選を通して聴くよりは、「リンゴの唄」とか「東京キッド」とかの流れで聴く方が自然かも。
民族調からジャズ、電子音楽までこなしちゃうDATEKENさんだけれど、こんなのまでできちゃうのねえ。すごいわ。

サウンド面で非常に印象的なのは、SP盤を再現したノイズとLo-Fiさ。ノイズを除いたバージョンもpiaproに上がっているけれど、ぜひ1度はノイズ有りで聴いてほしい。ブギ60年の歴史へのリスペクトを感じるんだよねえ。
サウンドだけじゃなくて、歌詞も戦後占領期の雰囲気なのよね。「センチな事は忘れて陽気に謡おう」なんてのが、いかにもあの時代っぽい。


6
弾人 / "piano"
7/29



ジャンルはジャズかな。この10選では2曲目になるUTAU曲。
選ぶにあたってこれと「forte」のどちらにするか迷ったのだけれど、こっちの方がより緩急の幅で優っていると感じたので。「forte」のビートの心地よさも捨てがたいのだけれどね。

ボーカルとピアノ1台で奏でられる音楽は、時に切なく、時に力強く流れていく。音楽の盛り上がりのレンジは編成に依らないということがよくわかる。
調教面もすごい。細かく震えるような歌声と口元の実体感が素晴らしい。この情報量の高さ、人間っぽさは、今のVOCALOIDではちょっと太刀打ちできないレベル。

しかし、弾人さんはUTAUシーンでは有名だけれど、ボカロ専門で聴いてる人への知名度はどうなのかねー。Watoさんあたりを好きなら、この曲はかなりおすすめ。


7
out of survice / "ピグマリオン"
8/21



ロック。

これはもう、調教の良さを差し置いて何をか語らんと。使われているのはCeVIOのONEなんだけど、いやはやこの神調教には本当に度肝を抜かれた。
今の3大合成音声(VOCALOID、UTAU、CeVIO)の中で、最も人間に近い調教と言っていいでしょう。ぼうっと聴いていて「あれ、この曲って、何て歌い手さんが歌ってるんだっけ?」と思ったことが何回もあったくらい、今までの「人間みたいな調教」とは一線を画すレベルにある。
アウトさんの他のVOCALOID曲でそんなことは思ったことがないから、これはアウトさんの調教技術だけではなく、ONEの実力の高さもあるはず。

初めてCeVIOを聴いたとき、「VOCALOIDに匹敵する性能を引っ提げて、彗星の如く現れた第3陣営」みたいな認識を持ったのだけれど、これはもうVOCALOIDを追い抜いていると感じてしまうねえ。


8
regulus / "Weißer Schnee"
8/31



これもDubsteliod付いてるからダブステップなのかな。

ははは、同じ人を2回選んではいけないと誰が決めたのだ! 
というわけで、まさかのregulusさん2曲目。並みいる名曲を押しのけて2曲選んでしまった程度には、私にとって今年を代表するPなのです。

先の「Schwarzer Regen」の魅力がブレーキ感だとすると、こちらは飛翔感といったところ。
冷たい空を切り裂いて飛んでいるような感覚がものすごく快い。
そして特徴的な「パ パ」が楽曲全体をぐっと締まったものにしているのよね。もしこれが無かったら、ただ何となく完成度の高い曲になっていたんじゃないかな。


9
りねず / "曇り空のエール"
10/1



ピアノが印象的なポップ。

これはすごいぞ。聴いた瞬間、「とんでもない大名曲に出会ってしまった」とドキドキした。
心を鷲掴みにされるような名フレーズを次から次へと畳み掛けられて、息をつく暇さえなく感動し続けてしまう。

メロディが伸びやかに翔け上がっていったと思ったら、次の瞬間には風をはらんで滑り降りてきて、右へ左へ自由自在に飛び回る。
ようやく間奏だと思ったら、今度は躍動するピアノに耳を奪われる。
そうこうしているうちにラストサビが来て、大感動のうちにいつの間にか聴き終えてしまう。
本当に、最初から最後まで休む暇がないんだ。

そして爽やかで透明感のあるラピスの歌声も素晴らしいんだよねえ。ぼかりすを使ってるんだけど、それがまた、むやみに人間くさくなくて非常に好感の持てる調声で素敵。


10
シャレオツP / "ハゲとともに生きる。-bald up jazz funk mix-"
11/26




ジャズファンク。って投コメに書いてある。

これはずるいよー。めちゃくちゃカッコいいのに「ハゲ」連呼するんだもん。
カッコつけた気分で聴こうと思ったら、よく聴くと「太陽のように輝きたいのに…」とか言ってるんだもん。笑うわ。

繰り返して言うけれど、曲そのものはめちゃくちゃカッコいい。ファンク系好きならノリノリになれること請け合い。
それから、かなりの良調教でもある。技巧的な調教で、アクセントの付け方が外国語っぽくてクール。ボーカルはルカV4Xで、こういう曲調には鉄板のボカロよね。


特別枠
よさこい男爵 / "CRYPTOLOGY"
2014/12/30



テクノポップ。

いやほら、年末の曲って10選入れにくくてかわいそうじゃん?
この曲はあと2日投稿が遅かったら、1も2もなく10選入りだったからねー。
えのやっくさんの「共有結合」(2010/12/27投稿)を2011年の10選に入れられなかったことを今でも後悔してるので、今度はちゃんと特別枠を設けた。


以下あとがき。

2016年1月10日時点での再生数平均値40896、中央値が16089(CRYPTOROGY抜き)。最大値はSnow Fairy Storyの204797、最小値は曇り空のエールの2791。
昨年と比較すると、最小値以外は低下。特に平均値は6割減で、この1年のボカロシーン全体の落ち込みを考慮しても、昨年よりマイナー寄りの選曲と言える。

今年は昨年以上にボカロ熱が低くって、10曲も選べるんかいなと恐々としていたんだけれど、選び始めたら予想外に粒ぞろいで驚いた。
最終選考で落とした曲はどれも選抜組と甲乙つけがたい名曲で、「これ落としちゃうの!?」って心の声が聞こえたほど。
regulusさんから2曲選んだのも、良い曲が思いつかなかったからではなくて、数ある良作の中でそれでも選ぶ価値があると思ったから。
それにしても、「良い曲が減っている」んじゃなくて「良い曲が伸びない」というのが今のボカロシーンなんだなと、改めて痛感したよ。

曲チェックの方法については、昨年とほとんど変えてない。ぼかうたらん+みてれぅちゃんねるでの新曲チェック。
このチェック方法については、非常によく機能してくれていると自負している。ボカロ熱低くても続けられているのだからね。
今年もきっと変えずに行くでしょう。